戦争法案(安保関連法制)



1、憲法第 9 条と集団的自衛権
―国会答弁から集団的自衛権解釈の変遷を見る―


政治議会課憲法室  鈴木 尊紘
http://ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/pdf/073002.pdf

集団的自衛権の行使は、日本国憲法第 9 条下で許容される実力の行使の範囲を超えるものであり、許されないとの立場を採っている。 憲法学説においても、集団的自衛権の行使が認められていないと解するのが通説である。上智大学名誉教授の佐藤功氏は、「第 9 条が一切の戦争および武力の行使を否認している以上、仮に自衛権は否認されていないとしても、その行使は、( 1 )日本の領域が武力行使を受け、( 2 )その武力攻撃を防止するために他の方法がなく、且つ、( 3 )その防止のため必要最小限度における行動である場合に限られる([中略]。「専守防衛」の原則といわれるものがこれである)。すなわち、日本の場合は、通常の意味における集団的自衛権は認められない。」と明確に論じている(10)。

1 日本国憲法制定期及びその直後
 日本国憲法制定過程において、集団的自衛権に関する議論は行われなかったが、「戦争放棄に関する規定は、直接には自衛権を否定していないが、第 9 条第 2 項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、交戦権も放棄した」(吉田茂首相の発言。第 90 回帝国議会衆議院議事速記録第 6 号 昭和21 年 6 月 26 日 p.81.)

 1950 年 6 月の朝鮮戦争勃発を背景にして警察予備隊が創設され、1951 年の対日講和条約(日本国との平和条約)の締結という連合国による我が国の占領の終了があった。また、旧日米安保条約(日本国とアメリカ合衆国との安全保障条約)の調印及び発効を契機として、我が国の安全保障が国会で議論された。

我が国の警察予備隊も朝鮮の戦線を守ってもらいたいという要求が出てきた場合にどうするのかという質問を行った。これに対しては、「日本は憲法第 9 条によって厳として軍備を持たない、また交戦権を行使しないという国家の性格を明らかにしている。いかなる要請が国連ないしアメリカ政府から出ても、日本としては、この憲
法を崩すようなことは断じて許されない」(西村熊雄外務省条約局長の発言。第 12 回国会参議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会会議録第 12号 昭和 26 年 11 月 7 日 p.5.)と明言している。加えて、「日本は独立国なので、集団的自衛権も個別的自衛権も完全に持つ。しかし、憲法第9 条により、日本は自発的にその自衛権を行使する最も有効な手段である軍備を一切持たないことにしている。だから、我々はこの憲法を堅持する限りは、御懸念(=警察予備隊を国外の軍事行動に使用する)のようなことは断じてやってはいけないし、また他国が日本に対してこれを要請することもあり得ないと信ずる」(西村熊雄外務省条約局長の発言。第 12 回国会参議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会会議録第 12 号 昭和 26 年 11 月 7 日 p.5.)という答弁がある。

「平和条約でも、日本国の集団的、個別的の両者の自衛権というものは認められているが、しかし、憲法の観点
から言えば、憲法が否認していないと解すべきものは、既存の国際法上一般に認められた固有の自衛権、つまり、自分の国が攻撃された場合の自衛権であると解すべきである。集団的自衛権、これは換言すれば、共同防衛又は相互安全保障条約、あるいは同盟条約ということであって、つまり、自分の国が攻撃されてもいないのに、他の締結国が攻撃された場合に、あたかも自分の国が攻撃されたと同様にみなして、自衛の名において行動するということは、一般の国際法からはただちに出てくる権利ではない。それぞれの同盟条約なり共同防衛条約なり、特別の条約があって初めて条約上の権利として生まれてくる権利である。ところが、そういう特別な権利を生み出すための条約を日本の現憲法下で締結されるかどうかというと、できない。(中略)日本自身に対する直接の攻撃あるいは急迫した攻撃の危険がない以上は、自衛権の名において発動し得ない。」(下田武三外務省条約局長の発言。第 19 回国会衆議院外務委員会議録第 57 号昭和 29 年 6 月 3 日 pp.4-5.)この答弁の重要なポ
イントは、第 1 に、集団的自衛権の行使には特別の共同防衛条約が必要であると認識していたこと、第 2 に、憲法は第 9 条第 2 項の交戦権禁止規定により、この共同防衛条約を締結することを許さない、すなわち、憲法は集団的自衛権の行使を認めないという理解をしていたこと、第 3 に、憲法が認めるのは個別的自衛権のみで
あると明示していること、第 4 に、上記の西村答弁とは異なり、下田答弁は、集団的自衛権とは個別的自衛権の共同行使ではなく、自分の国が攻撃されていないにもかかわらず、同盟条約を締結している他の国が攻撃された場合に、自衛の名において防衛行動を行うことであるという国際法上広く使用されている概念として捉えなおされているという点であろう。 

岸信介首相は、「いわゆる集団的自衛権というものの本体として考えられている締結国や特別に密接な関係にある国が武力攻撃をされた場合に、その国まで出かけて行ってその国を防衛するという意味における集団的自衛権
は、日本の憲法上は持っていないと考えている」(岸信介首相の発言。第 34 回国会参議院予算委員会会議録第 23 号 昭和 35 年 3 月 31 日 p.24.)と答弁している。さらに、この答弁の直後に、いわゆる海外派兵を、集団的自衛権の「最も典型的な、最も重要視せられるもの」(岸信介首相の発言。第 34 回国会参議院予算委員会会議録第 23 号 昭和35 年 3 月 31 日 p.24.)と位置付けている。こうした言明は、同時期の林修三内閣法制局長官の答弁にも見られるものである。「外国の領土に、外国を援助するために武力行使を行うということの点だけに絞って集団的自衛権が憲法上認められるかどうかということを言えば、それは今の日本の憲法に認められている自衛権の範囲には入らない」(林修三内閣法制局長官の発言。第 31回国会参議院予算委員会会議録第 11 号 昭和 34 年3 月 16 日 p.27.)という答弁である。


岸信介首相は、次のように述べている。「集団的自衛権という内容が最も典型的なものは、他国に行ってこれを守るということだが、それに尽きるものではないと我々は考えている。そういう意味において一切の集団的自衛権を持たないということは言い過ぎだと考えている」(岸信介首相の発言。第 34 回国会参議院予算委員会会議録第23 号 昭和 35 年 3 月 31 日 p.27.)。それでは、海外派兵につながらない集団的自衛権とは、具体的にどのように考えられていたのだろうか。それを示しているのが、同委員会での林修三内閣法制局長官の答弁である。林修三内閣法制局長官は、秋山長造議員から海外派兵以外の如何なる集団的自衛権があるのかと問われ、「例えば、現在の安保条約において、米国に対し施設区域を提供している。あるいは、米国が他の国の侵略を受けた場合に、これに対して経済的な援助を与えるということ、こういうことを集団的自衛権というような言葉で理解すれば、私は日本の憲法は否定しているとは考えない」(林修三内閣法制局長官の発言。第 34 回国会参議院予算委員会会議録第 23 号 昭和 35 年 3 月 31 日 p.24.)と答弁している。しかしながら、この安保改定期以降、日本が制限的な形で集団的自衛権を有しているという答弁が明示的に行われることはないことが指摘されている(18)。


(高辻正巳内閣法制局長官の発言。第 61 回国会参議院予算委員会会議録第 5 号 昭和 44年3月5日 p.12.)という答弁がある。この答弁において注目すべきであるのは、第 1 に、安保国会で定着した他国防衛のために自衛隊を「海外派遣」することが集団的自衛権の本質であるという理解には変化が見られないこと、第 2 に、我が国が他国の集団的自衛権に基づく軍事行動の利益を享受することは憲法上問題がないことを述べているという点であろう。 また、第 59 回国会において、佐藤栄作首相は、「私は、アメリカの基地といっても、日本の領海、領土、領空を侵害しないでそういう攻撃はないと思っている。その場合には、私は自衛の権利がある、これは日本本土に対する攻撃をされたように考えるべきではないかと考える」(佐藤栄作首相の発言。第 59 回国会参議院予算委員会会議録第 2 号 昭和 43 年 8 月 10 日 p.4.)と答弁し、在日アメリカ軍基地への攻撃に対しては個別的自衛権を発動することができ、それは合憲であるとの政府の立場を明確にしている。

PKO(国連平和維持活動)等への自衛隊の海外派遣問題である。湾岸戦争の際には、我が国は多国籍軍へ直接的な協力はせず、総計 135 億ドルにのぼる資金援助を行った。しかし、クウェートが戦後行った感謝決議に、日本の名前はなかった。この問題に関しては、「多国籍軍の武力行使と一体とレファレンス_11月号.indb 42 2011/11/08 16:08:57憲法第 9 条と集団的自衛権レファレンス 2011.11 43ならないような協力であれば憲法上許される。しかし、具体的に、湾岸戦争の際のような多国籍軍への協力を念頭に入れた法律は今はない」(加藤紘一内閣官房長官の発言。第 125 回国会参議院内閣委員会会議録第 1 号 平成 4 年 12 月 8 日 p.15.)という答弁がある。

<いろんな国が認めてなくても世界の多くの人が日本の貢献を認めてればそれでいいのではないか?だからこそ東日本大震災のときは多くの国の人から支援があった。その金がどこに消えたのかは知らないが>

工藤敦夫内閣法制局長官の「(PKF への参加について)仮に全体として平和維持隊などの組織が武力行使に当たるようなことがあっても、我が国としてはみずから武力行使はしない、また当該平和維持隊などの組織とそれが行う武力行使と一体化することはないということであって、我が国が武力行使をするという評価を受けることはない。したがって、憲法前文や9条の平和主義や武力行使の禁止に反するようなことはない。」(工藤敦夫内閣法制局長官の発言。第 121 回国会衆議院国際平和協力等に関する特別委員会議録第 3 号 平成 3年 9 月 25 日 p.3.)という国会答弁である。実際に 1992 年 6 月に PKO 法(28)が成立するが、後年(2001 年)、谷内正太郎外務省総合政策局長は、PKO への参加についても、政府は、「PKO は、国連が世界各地における地域紛争の平和的解決を助けるための手段として、実際の慣行を通じて確立してきた一連の活動であり、基本的に中立、非強制の立場で行われるものであるから、このような PKO への参加は集団的自衛権の行使には当たらない」(谷内正太郎外務省総合外交政策局長の発言。第 151 回国会参議院外交防衛委員会会議録第 15 号 平成 13 年 6 月 12 日 p.21.)という答弁を行っている。

1990 年代の国会においては、アメリカ軍の戦闘作戦行動のために我が国にある同軍の基地が利用されること、アメリカ軍等の後方支援として武器の輸送を行うこと及び同軍へ武力行使に関する情報を提供すること等が武力行使の一体化には該当せず、したがって、集団的自衛権の行使には当たらないことが答弁されていく。第141 回国会参議院本会議において「武器弾薬の輸送それ自体は武力の行使に該当せず、また戦闘地域と一線を画する場所において行うという前提にかんがみれば、アメリカ軍との武力の行使の一体化の問題は生じない」(橋本龍太郎首相の発言。第 141 回国会参議院会議録第 3 号 平成 9年 10 月 3 日 p.16.)と

2000年代で注目すべきなのは、テロ対策特措法(30)の協力支援活動、イラク人道復興支援特措法(31)の安全確保支援活動及び補給支援特措法(32)の補給支援活動の議論時における「武力行使との一体化」の回避の政府論理である。前述したように、政府は一貫して武力行使との一体化は憲法第9条が禁止しているものと答弁をしてきた。そのため、この回避のために作られたのが、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為の行われることがないと認められる」後方支援(周辺事態安全確保法)及びいわゆる非戦闘地域(テロ対策特措法、イラク人道復興支援特措法及び補給支援特措法)という概念である。高村正彦外相は「後方地域というのは国際法上今まで使われてきた概念ではない。そして(中略)、憲法 9 条との関係で武力行使との一体化を定型的に避けるためにそうした概念を作った」(高村正彦外相の発言。第 145 国会参議院予算委員会会議録第 3 号 平成 11 年 2 月 23 日 p.10.)と述べ、石破茂防衛庁長官は「対応措置の実施は、いわゆる非戦闘地域において実施することとされている。これは、我が国が憲法の禁ずる武力の行使をしたとの評価を受けないよう、他国による武力行使との一体化の問題を生じないことを制度的に担保する仕組みの一環として設けたものである」(石破茂防衛庁長官の発言。第 156 回国会衆議院会議録第 42号 平成 15 年 6 月 24 日 p.6.)という答弁を行っている。政府は、このようにして他国との武力行使との一体化を避け、ひいては、そこで発生し得る集団的自衛権の行使を否定しているのである(33)


安倍晋三首相も「大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘いといった国際情勢の変化や、武器技術の進歩、我が国の国際貢献に対する期待の高まりなどを踏まえ、日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究してまいる」(安倍晋三首相の発言。第 165 回国会衆議院会議録第 3 号 平成18 年 9 月 29 日 p.3.)

<もうこの時から米国の犬っぷりを発揮している>





2、防衛省HPに「集団的自衛権、許されない」 7日に削除

朝日
http://www.asahi.com/articles/ASG782SWZG78UTIL006.html

集団的自衛権の行使を認める1日の閣議決定以降も、防衛省がホームページ(HP)に「集団的自衛権の行使は、憲法上許されないと考えています」との文章を載せていたことがわかった。ツイッターで「防衛省は(行使に)反対」「集団的自衛権は違憲と明記」と話題になっていた。同省は7日、文章を削除した。

 防衛省によると、文章を掲載していたのは「憲法と自衛権」について解説したHP。外部からの問い合わせを受けて削除。「記述を修正しています」と赤字で記した。担当者は「更新が遅れた。うっかりミスで、他意はありません」と説明している。

 文章は30年以上、防衛白書に記載されてきたものと同じ内容だった。閣議決定でこの夏に発行予定の2014年版防衛白書も内容を変更することになり、編集作業が急ピッチで進んでいる。(福井悠介)





3、砂川判決全文


(9条)同条二項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となつてこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。

<この時自衛権すら曖昧にしてるのに、集団的自衛権で攻撃できるとかありえないだろう(笑)>

 平和条約の発効時において、わが国固有の自衛権を行使する有効な手段を持たない実状に鑑み、無責任な軍国主義の危険に対処する必要上、平和条約がわが国に主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章がすべての国が個別的および集団的自衛の固有の権利を有することを承認しているのに基き、わが国の防衛のための暫定措置として、武力攻撃を阻止するため、わが国はアメリカ合衆国がわが国内およびその附近にその軍隊を配備する権利を許容する等、わが国の安全と防衛を確保するに必要な事項を定めるにあることは明瞭である。

<最初の太文字では個別的自衛権すら持たないように書いている、一方アメリカは個別も集団も持っていると書いている。この個別や集団はアメリカに対して書いているのであって、日本に対して書いていないのは明らか(笑)どういう日本語能力を持ってれば、これが日本に対して書かれてると思うのだろう?むしろ個別すら怪しい>

本件安全保障条約は、前述のごとく、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきものであると解するを相当とする。

<差し戻したことといい、完全に逃げてる(笑)>


右駐留軍隊は外国軍隊であつて、わが国自体の戦力でないことはもちろん、これに対する指揮権、管理権は、すべてアメリカ合衆国に存し、わが国がその主体となつてあだかも自国の軍隊に対す
ると同様の指揮権、管理権を有するものでないことが明らかである。

<ある意味米軍が何をしても日本には責任がないといわんばかりの責任逃れ>


再び戦争の惨禍が起らないようにすることに存し、わが国がその駐留を許容したのは、わが国の防衛力の不足を、平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して補なおうとしたものに外ならないことが窺えるのである。 果してしからば、かようなアメリカ合衆国軍隊の駐留は、憲法九条、九八条二項および前文の趣旨に適合こそすれ、これらの条章に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない。そしてこのことは、憲法九条二項が、自衛のための戦力の保持をも許さない趣旨のものであると否とにかかわらないのである。 

<ここでも個別的自衛権は曖昧の極み(笑)むしろ個別的自衛権は認められてないけど、米軍は日本のものじゃないから許されるでしょうとすら聞こえる(笑)>

 この判決は、裁判官田中耕太郎、同島保、同藤田八郎、同入江俊郎、同垂水克己、同河村大助、同石坂修一の補足意見および裁判官小谷勝重、同奥野健一、同高橋潔の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

<アメリカのいいように書いた判決文。集団的自衛権どころか、個別的自衛権すら判断しきれていない。ただここで個別すらなくしてしまうと、それを口実に三択にされる可能性があるからな>
 



































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